幼い私は、びっくりして、
何も言えないまま、そのクジラを見つめていた。
"ア.....コワガラナイデ”
優しく笑いながら、クジラの精霊は言った。
"ワタシハ、アナタノナカマ、デス"
「仲間...って、ともだち?」
笑顔に安心した私は、そう問いかけた。
"ハイ。トモダチ。カゾク。"
私はちょっと前に、お母さんに連れていってもらった町の図書館でのことを思い出した。
その図書館で真っ先に見つけたのは、キレイな色彩...深い藍色のグラデーションに散りばめられた星の絵が印象的な絵本だった。
その神秘的な絵に惹かれ、文字が読めるようになってまもない私は、ワクワクしながら絵本を読んだのだった。
その、絵本のことを思い出していた。
その本に描かれていたのは『死んだ動物や人の精霊が星になる』...童話のような神話のような、不思議な物語だった。
そして、この世界から天上に旅立ついきもの達は、大地や海で生きていた時の、自分の一番の思い出を、星になる前に誰かに伝えてゆく。
誰かに伝言を渡したら、安心して空に昇って行けるのだ、と。
そして、それがのちに神話になってゆく...
そんなステキな物語だった。
だから私は、今、目の前にあらわれたこの透き通ったクジラも、
星になる前の精霊なのだ...と、素直にそう思った。
そのクジラの精霊が、星になってゆく前に、
なにか私に伝えに来てくれたんだ...
数日前に読んだ絵本がとても素敵で、
そのお話を気に入った私は、
クジラの精霊のことを訝しがることもなく、
すんなりとうけとめ、またとても嬉しく。
精霊が話してくれるであろうお話を聞こうと思えた。
私の生まれた集落にも、たくさんの動物達との神話が伝わっていて...おばあちゃんは、私にそんなお話をいつも聞かせてくれていた。
まだ幼いこどもだった私の、
それは大きな楽しみだった。
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