2017年3月9日木曜日

十楽章〜2

〝私がうららになって家に帰れば、
うららはこのまま旅を続けられるでしょ?″

「私になるって、変装でもするつもり?」

 
小馬鹿にしたつもりで言ってみると、彼女は


〝もちろん!″


と、元気よく返事をするのであった。


「あぁ、うん。そうね」


 ダメだ。この子を頼った私が馬鹿だった。


〝む、なんだいその反応は″


 と、フラッチーは不満そうな顔をする。

 バカが過ぎている。非常識にも程がある。

 そもそも、ごくわずかな人にしか視認できないというのに、どうやって私の代わりを務めようというのか。

 とまあ、言ってやりたいことは色々あるけれど、なんだろう……言うだけ無駄な気がする。

 そんなことより、なんとか他の方法を考えなければ。でも、あの感じだともう嘘は通じないだろうしなぁ。


「あぁぁぁどうしよう〜」


〝だからあたしがうららになってさ″


「はいはい。それはもう分かったから」


 しつこいフラッチーを適当にあしらいつつ、お母さんに打ち勝つため頭を捻らせる。


〝やれやれ。そうやって考え込むからいけないのに″


「ん? 何か言った?」


 フラッチーの声が聞こえて振り返った私は、我が目を疑った。

 鏡も何もないはずなのに、同じ姿形でそこに立っている。私が。

 一体、どういうこと? 目を擦っても頬をつねっても、ドヤ顔で仁王立ちする私が消えることはなかった。どころか、質感のある声でこう言うのだ。


「どうよ!」


「……え……え?」


 何が起こったのか分からず戸惑う私。それでも、その態度と雰囲気から何となく察しはついた。


「まさか……フラッチー?」


「正解!」


 頭が真っ白になりそう。まさか、本当に私になってしまうだなんて。あらためてでたらめな存在だなぁと感じた私である。

 でも、これでフラッチーの提案が現実的となってしまった。だって、それが可能ならすごく美味しい話じゃない。


「ん? でもフラッチーって物に触れないんじゃなかった? ご飯も食べられないんじゃないの?」


 私の質問に対し、フラッチーは「ほい」と私の手を掴んでがぶり。


「……え?」


 手のぬくもり、柔らかさ、あと、口の中であろう感覚が、私の手から伝わってくる。視覚以外でも、その存在が実感できる。

 不意を突かれてしばらく思考が停止してしまったけれど、フラッチーの行動で私の疑問や心配は無くなった

 これは、いける!




art by Chii & Ema



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