2016年6月29日水曜日

9楽章〜その2

 「いのちのしま」に関わること全て? にわかには信じられない……けど、信じられないような体験はいくつかあったし。それにこのお婆さんって、あのおじさんに、なんとなく雰囲気が似ている。夏休みの始まりに、クジラの丘で偶然に出会ったおじさん……私にカセットテープを渡してくれた、あのおじさんに。

「あの、だったら色々聞きたいことがあるんですけど」

「聞きたいことがいっぱいか。うむ、知っておる。この唄が何なのか知りたいんじゃろ?」

 私とカホラちゃんは「はい」と頷いた。二人は真剣な面持ちで、お婆さんの言葉を待つ。

「『いのちのしま』はの、海の民からのメッセージなんだべ」

「「メッセージ?」」

 二人の声が重なる。

「海の民って、誰なんですか?」

カホラちゃんは遠い向こうを見つめるようなまなざしでそう聞いた。

「誰って、海に暮らしている家族さ」

「えっそれはいったいどういう…」

それは一体どういうことなのか、と、不思議がるカホラちゃんを感じながら、私は漠然と理解した。

海に暮らしている家族…そう、例えばフラッチーのような存在が突然あらわれ、私のそばに居る。信じられないことだけど、海の生き物が…それも他界しちゃった生き物が、私のそばに居る。もう、今の私なら、なんでも信じることができちゃうからね!    って、自慢することでもないんだけれど。

「そう。彼らは我々人間に伝えようとしている。それが何なのかは、自分で探してみるといいべさ」

「そんな! もったいぶらずに教えてよ!」

 カホラちゃんは抗議する。けれどお婆さんは、「それじゃ意味ないんだべ」と言ってのけた。

「すぐに分かるときがくる」

 最後にそう言い残し、お婆さんはここから去っていった。

 微妙な空気が流れていた。カホラちゃんは釈然としない様子。

    私は頭の中がこんがらがりつつも、心の深いところではお婆さんの言葉を理解したいた。


イラスト by うらら

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